0

輝ける新しい時代の君へ Ⅷ

 次の日も少年は男のもとに行った。
 男は少年が自分の横に座ると、いつものように切り出した。
「昨日は何をしたんだい」
「きのうはな、おはかまいりに行った」
「へえ、誰のだい」
「お父さんのお父さんのおはか。きのうはじいちゃんの命日だったらしい」
 少年が何ともないように言ったが、男の顔から笑顔が消え、代わりにいささか目を見開いた。
「おまいりに行ったとき、おばさんが僕のじいちゃんはここにはいないんだと言っていた。せんそうで、とおいところでしんだらしい」
 少年は父方の祖父に会ったことがなかった。祖父の息子たる父親でさえ思い出がない。というのは、少年の祖父は約四十年前の満州で戦死したのだ。父親が五歳の頃だ。だから祖父の話はあまり聞いたことがなかった。祖母は健在であるが、早々会わないので彼女からも話を聞いたことはない。
 そういったことがあり、感傷などは少しもなかった。それに何より、まだ『戦争で死ぬ』ということの意味があまり分かっていなかった。
「なあ、せんそうって何なんだ?こわくないのか?ほかの国のこと、どうしてきらいだったんだ?」
 突然の質問攻めに男は困惑した。今になって、どうしてあんな無礼な質問をしてしまったのかと後悔することが多々ある。しかしこの時の少年にとって戦争は、単なる好奇心や興味が向けられる対象以外の何物でもなかった。
 それは男も分かっていたと思う。少年のことを能天気だと思ったかもしれない。妬ましいと思ったかもしれない。羨ましく思ったかもしれない。怒りを覚えたかもしれない。それを抑えて無難に答えるつもりだったのだと思うが、感情が溢れ出していた。
 天を仰いだ目は、出会った日よりも強く哀愁が感じられ、それは少年にも分かるほどだった。長い溜息を吐いて足に肘をつき、手指を組み力なく項垂れた。
「アー……本当に何なんだろうね。俺が訊きたいよ。怖かったなあ……本当は心の中では死にたくないって思ってた。実はね、みんな、アメリカやソ連のこと嫌ってばかりじゃあなかったんだよ。なのにみんな嘘吐いてた。自分や家族を守るためにね……嫌な世の中だった」
 おどけて言っているが、声は震えていた。顔は見えない。
「良くないね、大人なのに弱音吐いて。変な話してごめんね。坊や、まだ子供なのに」

レスを書き込む

この書き込みにレスをつけるにはログインが必要です。