完全下校時刻10分前を知らせる校内放送が流れた。作戦決行だ。
「ちゃんと証拠として写真と動画撮ってこいよ!」
そう呼びかける仲間たちに親指を立て、俺は周りの目を盗んでさっき決めた隠れ場所に素早く滑り込んだ。そのまま周囲の物音に注意を払いつつ、スマホの時計を見ながら完全下校時刻である18時を待つ。1度は見回りの先生が近くを通った気配がしたけど、スマホの電源を落として息を潜めていたら結局バレずにいなくなってくれた。
まずは植木の陰から顔を出し、学校側を確認する。職員室の明かりが点いているが、窓の近くに人がいる様子は無いし、今ならうまく鉄棒に近付けるだろう。
体育倉庫の陰に隠れるようにして、うっかり誰かに姿を見られたりしないよう気を配りながら件の鉄棒に近付いた。さて、幽霊ってのは本当にいるんだろうか……
「ねえきみ、もう完全下校時刻は過ぎてるだろう? 何してるの?」
不意に頭上から声をかけられた。面食らって腰を抜かしてしまったが、よくよく見てみると鉄棒の上には俺と同じ制服を着た俺と同い年くらいの生徒が腰かけていた。
「ゆ、幽霊……!」
「え、いや違うけど」
「え、あ、違うの」
「うん。なに、肝試し?」
「そんなところだ。お前もか」
幽霊じゃないって言ってたし、制服も同じだし、多分こいつも肝試しか悪戯で来た奴なんだろう。とりあえず今はそう思っておくことにする。ついでだから写真も撮っておこう。
「いぇーい」
スマホを向けたら奴はピースサインを作って応じた。結構ノリの良い奴だな。
「で、お前はそんなところで何やってんだよ」
立ち上がり、鉄棒の上の奴に問いかける。
「ああ、いや僕も下りたいのは山々なんだけど、『そいつ』のせいで下りるに下りられなくってね」
「『そいつ』?」
奴が指差す鉄棒の下の地面――今まさに俺が立っている場所を見る。
たしかに『そいつ』は居た。地面に突如現れた巨大な顎が、俺を飲み込もうと閉じつつあったのだ。