幽霊野郎は背中を強く地面に打ち付けたようで、「おふっ」なんておかしな声を漏らしていた。
「おい、幽霊野ろ……!」
地面の方を見たが、もう遅かった。『サメ』の大顎は既に7割方閉まり切っていて、もうあいつが逃げ出せる隙間なんて無い。
だというのに、あいつは、幽霊野郎は、悟りでも開いたかのように穏やかに笑っていた。
その微笑も、一瞬の後には隙間無く並んだ牙の向こうに消えてしまったが。
「幽霊野郎……」
呟いたが、勿論返事は来ない。『サメ』はしばらくこっちを睨んでいたが、10秒も経たずに地面の中に沈み込むように姿を隠してしまった。どうせ、こっちが痺れを切らして下りた瞬間に襲い掛かってくるつもりなんだろう。厭らしい化け物だ。
「……何か、腹立ってきたな……。あの幽霊野郎の弔い合戦ってわけじゃねーけどさ」
腰掛けた状態から、両足を鉄棒の上に乗せた状態に姿勢を変える。
「おいサメ野郎。俺は、お前を出し抜いて無事に帰るからな。絶対にだ。お前の餌は、さっきの幽霊で打ち止めだ」
地面の下の『サメ』に宣戦布告し、鉄棒から飛び降りた。