「よォお前、こんな往来ド真ん中で立ち止まってどうしたィ?」
「ん? 何だ友よ、俺に気付いてあっちに気付かねえとは、随分と視野が狭いな。葦でも覗いてんのかい?」
町をぶらついていると友人の姿を見つけたんで声をかけてみた。返事はいつも通り皮肉たっぷりだったが。
「んで、何を見ていた?」
「あれさね」
「どれさね」
「俺の指を見ろ」
「…………」
「馬鹿野郎、指を見てどうする。指差す先を見ろってんだよ」
「最初からそう言えよなー」
冗談を交えつつ奴の指す方を見てみると、異国の僧衣を纏った異国の少女が、たどたどしい日本語で何やら演説をしていた。
「何あの美少女」
「どーも異国の宗教について話しているらしいぜ」
「シュウキョウ……? 生憎と興味が無えな。俺が信じるのは祖霊だけだ」
「ばちぼこ浸かってんじゃねえか」
「で、どんな胡散臭い宗教だ? 見てくれだけなら若い男が黙って通り過ぎるわけが無いと思うんだが」
「ごめん俺異国の顔は好かねえ」
「俺もー。で、どんな宗教だって?」
「話聞いてやれよ」
「お前は聞いてたんだろ?」
「おう、割と朝早くからそこに立って、もう二刻は話し続けてるぜ。もう十回は同じ話してる」
「それで野次馬がお前1人か」
「うん」
「そっかァ……。で、どんな宗教だって?」
「だから話聞いてやれって」
「発音が聞きにくいんだよ」
「そんならしゃあねえや」
2人して笑っていると、俺の博打仲間が声をかけてきた。
「ようお前ら、何を笑ってんだ?」
「おー、お前俺達には気付いてあれには気付かねえのか」
友人にやられたことを、そっくりそのまま繰り返す。
「『あれ』? あれってどれだ」
「俺の指を見ろ」
「…………?」
「指差す先を見ろって話だ馬鹿野郎」