「……まあ、真理ちゃんがそう言うなら、俺らからは何も言うこと無えよ」
「あ、宗司お前、『ら』って言ったな! 俺はまだ賛成してねえぞ!」
「じゃあ多数決で負けね」
初音も真理奈の意見に従うようで、灯もすぐ押し黙り、鉄線銃を強く握りしめた。
「……じゃあ行くぞ、宗司、かどみー。遅れんなよ、落ちて死ぬぜ」
「おう」
「了解」
3人は同時に駆け出し、屋上の落下防止柵に跳び乗り、勢いのまま空中に飛びだした。
「っしゃ行くぞコラァッ!」
灯が掛け声と同時に鉄線銃を発射し、約30m先のビルの屋上にフックを固定する。そのワイヤーを掴んで引き寄せると、勢いで灯とその肩に掴まったあとの二人の身体はそのビルに向けて飛んでいき、3人は地上を蠢くカゲと関わることなくその距離を無事に移動した。
「よっしゃ、もう1発頼むぜ」
宗司に言われ、灯はワイヤーを銃の中に巻き取りながら答えた。
「ああ分かってるよ。今ワイヤー回収してるから待ってろ」
「はいはい」
先にこの建物の屋上まで投げておいた戦槌型P.A.を拾い上げながら、宗司もそれに応じた。
「……あ、そういえば」
思い立ち、初音はポケットから携帯電話を取り出して通話アプリを起動した。
「もしもし真理奈?」
『はいはいこちら真理奈。そっち見えてるよー』
「そっち大丈夫?」
『そこから見える?』
初音が元来た建物の方を見ると、猟銃を杖に、右手でスコープを持ち、肩と耳で携帯電話を挟み、片脚で屋上への入り口の扉を押さえている真理奈の姿が小さく見えた。
「大丈夫じゃなさそうなんだけど⁉」
『まあそろそろ限界かなー。そういうわけで、1度切るからまたかけ直して?』
「え、あ、うん……」
「おいかどみー、次行くぞー!」
初音が灯の言葉に振り向くのとほぼ同時に、真理奈の側から通話が切られた。