それから更に2度空中を移動し、灯と宗司はカゲたちのヌシである大型個体と10mほど離れた家屋の屋根の上にいた。ヌシも彼らに気付き、眼球に似た器官をぎょろりと動かす。
「おーおー見られてるねー。行くぞ、灯、かどみー」
「おう」
灯は答えたが、その場にいない初音の返事は無い。
「……あれ、かどみーは?」
「え? そういや肩が軽かったような……あれ、いない。……どうすんのこれ」
「まあ……俺が倍働けば良いだけだしなぁ……」
ヌシの身体が少しずつ二人の方に向いていく中、灯の携帯電話から通知音が鳴った。
『ああ、もしもしアカリちゃん? 私だけど』
「あ、真理奈か。今ちょっとした問題が……」
『あー、かどみーのことでしょ? あの子なら大丈夫、途中で自分から離れてたから』
「大丈夫じゃねえ……」
『誰か生存者でも見つけたのかも』
『ごめん、勝手に離れて』
「うわあ⁉」
突然グループ通話に入ってきた初音に、灯が驚きの叫び声をあげる。その声に反応したのか、周囲のカゲたちが一斉に動き出し、灯たちがいる家に群がり始めた。
「うわやっべ引き寄せちゃった」
『ちょっと待ってて、援軍連れて行く』
「あー?」
通話こそ繋がっていたものの灯の疑問符に初音は答えず、灯は小さく舌打ちをして敵に相対した。