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野良輝士市街奪還戦 その④

遡ること数十秒、空中移動中、ふと地面を見下ろした初音は、地上を埋め尽くすカゲたちの中に不自然に空いた隙間を発見した。
(何だろ、あそこ……)
目を凝らし、その正体に気付くのとほぼ同時に、初音は灯の肩から手を放し、そこ目掛けて飛び降りていた。
カゲたちをクッションにして着地し、それらを順番に斬り倒しながら突き進み、遂に初音は小さな空白の正体に辿り着いた。
ビビッドカラーの迷彩模様に彩られた、金属製の折り畳み防楯。ひょいと跳び越えて内側に入ると、まだ幼さの残る少女が必死で押さえていた。
「ねえ」
「! え、誰、何⁉」
「ごめん、私は門見初音。あなたと同じ輝士だよ」
「わ、私は田代小春。逃げ遅れたんだけど、私のP.A.がこの楯で良かった……」
「ある程度は斬っておいたから大丈夫。それより小春ちゃん、突然で悪いんだけど、ちょっとついて来てくれる?」
「え、うん、はい」
小春が防楯を畳んでいる間、初音がカゲたちを牽制する。
「はい、準備できました!」
その声に初音が目を向けると、小春は防楯を折りたたんで、背中に背負っていた。
「うん」
通話アプリを起動し、真理奈と灯の通話に参加する。
『あの子なら大丈夫、途中で自分から離れてたから』
『大丈夫じゃねえ……』
『誰か生存者でも見つけたのかも』
自分が勝手に離れたことについて話しているのだろう。そう考え、初音は声をかけた。
「ごめん、勝手に離れて」
『うわあ⁉』
突然の大声に耳を押さえながらも、状況を伝えようとして電話口から灯の声が聞こえてきた。
『うわやっべ引き寄せちゃった』
(……今の大声でカゲを呼び寄せちゃったのかな)
「ちょっと待ってて、援軍連れて行く」
『あー?』
電話を耳から離し、小春の方に振り返る。小春はカゲたちから逃げるように背後のブロック塀の上に避難していた。
「ちょうど良いや小春ちゃん、ついて来て。私の仲間が危なそう」
「あ、りょーかいです」
ブロック塀から屋根の上によじ登り、2人はヌシのいる方角に向けて駆け出した。

  • 田代はSTI所属
  • 田代は部隊未所属
  • 鏡界輝譚スパークラー
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