部隊長は少年がやって来る前にすでに娯楽室で待っていて自らの弓矢型フォトニック・アームズを磨いていた。『開けたら必ず閉めろ!』『内鍵使用禁止!』 の張り紙がされた扉のドアノブを捻り彼を正面に見受けると、驚きつつも電気を点け一礼する。
娯楽室は教室より一回りか二回り小さい部屋で、グレーの2、3人掛けのソファが2つ向かい合い、その間に木製の小さなテーブルが置かれている。また、部屋の南には折りたたみテーブルとパイプ椅子、ホワイトボード、スクリーンが並ぶ。窓は部隊長の座る北側に1つあるが、採光機能はなく、電気を点けない昼間は薄暗い。だからこの娯楽室はスライドで作戦を確認するか、映画を見るか、大人数でボードゲーム大会をする以外には殆ど使われない。
「おっせーなぁ、待ちくたびれちまったぜ。……んで、用ってなんだよ。俺ァこれからアイスタ(アイドル・スターズというスマートフォンゲームの略称)のイベントに参加しなきゃいけねーんだよ、だから手短に頼む」
「善くんこと放ってゲームですか」
少年は彼にしては低い声で呟いた。いい加減な上官への憤りを物理的攻撃に自動変換しないようにするので精一杯だった。
「上官のこと呼び出しといて態度がでかいぞ。これが一昔前なら往復ビンタもんだぞ」
不満を垂れ流す部隊長を無視して、少年は手が出る前に単刀直入に本題に入る。
「隊長、善くんのこと、良いんですか?」
「いーんだよ。ああいうのは新人にはよくあんだよ……特に、憧れだけでスパークラーになった、絵に描いたようなプロパガンダ坊やには」
依然フォトニック・アームズに目をやったまま、変わらぬ緊張感のない顔で言い放った。おちゃらけた言い方ではあったが、どこか淡々としている。やはり多くの下っ端スパークラー(部隊長も下っ端だが)と違い大学進学後の除隊期限延期組なだけあって、余裕と冷淡さが見て取れた。
「そんな言い方ないじゃないですか」
「あるね。ありありのオオアリクイ」
「やめてください古いです」
「え、そうか?だってあの児童書の……」
「それはパロです。元ネタはもう少し前の芸人の……じゃなくて!」
「どっちが古いんだか」
部隊長がわざと聞こえる程度に呟くと、少年はキッと余裕そうに薄ら笑うその男を睨んだ。
それから形式的に咳を一つして気を取り直すと、また真面目な顔に戻る。