理想と現実の落差に戸惑う善。
かつての自分のように大切な人を亡くした善。
それでも現実と向き合うことを選んだ善。
どうしても、そんな彼のことが尊いものに思えて仕方がなかった。STIは彼のような若人を失ってはいけないと思った。
善の手が部隊長の胸元からはらりと落ちた。それも、一つの雫とともに。全身から力が抜け、その場に座り込んだ。
涙は次々頬を伝い落ちてくる。それを必死に止めようと掌で拭うも嗚咽が漏れてくる。
「うっ……うっ……駄目だっ、駄目だっ……」
善は嗚咽の間に歯を食いしばりながらぼそぼそ呟く。
「なあにが駄目なんだよ」
部隊長は冗談めいて言った。
十秒程度の嗚咽の後、善はかろうじてか細く声を漏らした。
「……泣いちゃっ、駄目なんだ……」
――和樹はあの瞬間、泣けないまま死んだのに。自分だけ泣くなんて。
そう思うと情けなくて、切なくて、和樹に失礼な気がして、今まで一度も泣けなかった。泣きたくなかった。しかし今は涙が止まらない。
部隊長は頑固な少年の不十分な回答に思わず苦笑した。
「別に泣けるときに泣いときゃ良いだろーが。こんなことでもねえと、スパークラーはおちおち泣いてもいらんねぇからな」
部隊長はカラッと気持ちよく笑った。
その言葉に、善は幼い子供のように声を上げて泣いた。
善は一歩、前に進むことができた。