「あ、あと」
かすみは思い出したように続ける。
「そんなにずぶ濡れだと“あの人”が心配するよ」
「…なっ」
かすみにそう言われて、ナツィは思わず恥ずかしそうな顔をする。
「…ふふふ」
かすみはそう笑ったが、ナツィはそっぽを向いて顔を赤くしていた。
「あ、あんまりそう言うこと言われたくないんだけど」
特に“アイツ“のことは…とナツィは呟く。
「やっぱり好きなの?」
”あの人”のこと、とかすみは首を傾げる。
「好きって訳じゃないけど…」
大事って言うか、とナツィはしどろもどろになりながら言う。
「そっか」
かすみはそう言って笑みを浮かべる。
「…行こう、ナツィ」
いつまでも雨の中で突っ立ってる訳にはいかないし、とかすみはナツィの手を取る。
「…うん」
ナツィはそう頷いて、かすみがさす折り畳み傘の中に入っていった。
〈雨傘造物帰路 おわり〉