次の日の放課後。
部活に参加した俺に、件の先輩がやって来た。部活の始まる前からソワソワした様子で辺りを見回していた。俺を見つけるとぱっと明るい顔で俺の名を呼びつつ駆け寄ってきたのだ。
「で、昨日どーだったよ!?」
やっぱりな。
先輩はおっかなびっくり訊いてきた。
「どうだったって……」
甲斐田正秀はいましたよ。彼と話して、彼は噂とは全く違う人物で、空襲で死んだ中学生でした。
……とは言わなかった。言いたくなかった。
あの少年は、そうやって大っぴらにして恐れられて良い対象ではない。もっと純粋で幼くて、切ないものだ。会って、直接話を聞いてやらなければならない。あそこに行こうと思った者だけが密かに確かに知って、ずっと心に止めておけば良いのだ。彼もそれを望んでいる。
だから俺は
「何もありませんでしたよ」
そう言った。
「……なあんだ、そうだよな、ははは、期待して損しちまったぜ」
「そうっすよ。それより、あれから大変だったんすよ!昇降口全部しまってて、職員室行ったら何でいるんだってチョー怒られて!」
「ははは、どんまーい」
「元凶先輩っすよ!」
「へへへ」
「もう!」
「おい!そこうるせーぞ!」
「すいません!」「すいません!」
またも先生に怒鳴られ、部活を始めた。
あれ以来、俺はあの時間にあの教室に行くことはなかったけど、後輩には教えてやった。
甲斐田正秀の『恐ろしい噂』を。
終
大分遅れたけど完結お疲れ様です。よく終わらせてくださった。
そういやいつの間にか年齢1つ上がってますね。