さあこんな恐ろしい子供が近所にいたかな、と思慮を巡らしましたが、そんな子供がいた覚えはありません。そこで様子を伺い続けていると、箱から離れてトカゲの木の方に接近していきます。
やっと全貌が見えました。
ローブを着ているように見えましたが、よく見ると、それは黒褐色をした長い毛でした。体毛はところどころ毛玉になって、汚れてもいるので毛が固まって、よもや毛というより棘の様相でした。腰を曲げているのでトカゲの木の半分くらいの体躯に見えますが、実際は同じ程度と見受けられます。しかも、毛の隙間からは何やら粘液が出ております。それが白い月光に照らされて、ヌラヌラ光るんでございます。毛は顔のところだけ剥げ出ていて、血が通っていないかのように青白いのです。なのに顔中には細くて若いブルーベリーのような青の血管が張り巡らされています。また、縦方向に、鼻のあたりから顎まで裂けた口には何層にもなった草食動物の歯が無造作に生えております。その歯茎は融けているようにも、爛れているようにも見えました。口以外のところは全部、大小さまざまな、向く方もさまざまな、無数の目で埋め尽くされていました。
それが、表情というのはありませんが、嬉々として煮干しのようにみすぼらしいトカゲを枝に刺しているのです。
毎日トカゲの木にトカゲが刺さっているのは、彼が毎日やってきているからだったというわけです。
あの子はすっかり納得して、満足しました。近所の怖い子供がやってきているからではなかったからです。
そして、トカゲを串刺しにした犯人が去る頃には、その子は家に戻って、ベッドに入って寝てしまいました。