諏訪を離れ,周囲は木ばかりのエリアを抜けると一気に視界が開ける。
そうなると,小淵沢や長坂と言った八ヶ岳周辺のリゾート地を通過することになる。
嫁が「八王子入ったら起こすから,眠かったら寝て良いよ」と言ってくれたが,俺は窓の外を眺めてふうっとため息を吐き,「懐かしいな」と一言呟く。
すると,嫁が「懐かしいってこの辺にも思い出あるの?」と訊いてくれたので「そりゃ,思い出はあるよ。この辺は山梨と長野の県境に跨る形で八ヶ岳という山があり,その麓は別荘や保養所として有名なんだ。俺の地元,新宿区の保養所もこの近くの長坂っていう所とさっきいた諏訪から少し北に行った蓼科の女神湖にあってさ。小学生の頃はよく家族で長坂の方に泊まりに行ったし、学校の宿泊行事では女神湖行くのがデフォルトでさ。君も知っての通りイギリスで話になってた英語キャンプの宿泊地も女神湖だった。親父が山中湖に別荘買った頃には高校生で区の施設利用する機会は減ったし感染症の流行も重なってそのどちらにも行かなくなったけど…アレから5、6年経ってるんだもんなぁ…今どうなってんだろ」と返すと嫁は「福岡は広いから,車使っても県内のどこにいるかでどの県に行けるかが決まるの…だから,あちこち行ける東京都心が羨ましい」と言う。
そんな具合に雑談していると,笹子トンネルを抜けたあたりから突然嫁が痛みに耐えているように見えたので「標識が出てる初狩じゃ無くて,その次の談合坂ならかなり休憩所の規模が大きいからそこで一旦休憩取ろう」と声をかけると嫁の「本当に良いの?これから先何度も起きるよ?」という返事で理由を確信して「女性特有のアレ来たんだろ?」と訊くと嫁が黙って頷くので「なら、尚更談合坂で停まらないと。初狩の設備では昼ならまだしもこの時間では対応が難しいけど、次の休憩所なら対応できることの選択肢が増えるんだ。だから,申し訳無いけどあともう20分位我慢してくれないか?」と問いかけ,嫁が頷くのを見て社内公用語の一つであるロシア語で今起きてることを説明し,後ろにいた先輩が妹さんの為に買っていた生理用品を嫁の為に渡してくれた。
そして,無事に休憩所に着き嫁の対応も済んだので、長岡まで運転してくれた仲間に再度引き継ぎ、嫁と俺が後部座席に下がることになった。
もう間も無く、東京都に入る。