「……“天鉄刀”はどうする? 隕石の雨を、どう防ぐつもりだ?」
ルチルが見上げる先、その上空には、天球をほぼ埋め尽くすように大量の隕鉄塊が出現していた。
「私の能力と、シトりんの壊れない炎の身体。恐れるものがどこにある?」
アメシストはニヤリと笑い、炎の脚を深く折り曲げ、大きく前傾した姿勢のまま勢い良く飛び出した。
無数の隕鉄塊が不規則に降り注ぐ中を、アメシストは僅かな隙間を縫うようにして正確に回避しながら進んでいく。
アメシスト自身の能力によって極限まで鋭敏化された感覚能力が辛うじて生存ルートを導き出し、本質的に不壊の流体である、シトリンの能力による炎の脚を、一般的なメタルヴマの身体には耐え切れないほどの速度で稼働することで、ルートの発見とほぼ同時にそれを辿りようやく成し得る荒業である。
「よっしゃ、このまま奴の能力の範囲外まで逃げ切るよ」
「あ、ああ……」
あまりの速度と乱暴な挙動に、ルチルも簡単な相槌を返すことしかできない。
「……っと、その前に」
突然急ブレーキをかけてアメシストが立ち止まる。
「うわぁっ⁉ アメシスト、何を……⁉」
「ルチル、さっき言ってたよな? 『一撃返してやらなきゃ気が済まない』って」
「ああ、けど……」
「せっかくだし、それも叶えてから逃げ切ろうか。シトりん、ちょっと切り離すけど良いね?」
黄金の炎の塊が右脚から分離し、球体の形でアメシストの目の前に浮かぶ。
「よしよし。それじゃあこいつを……お見舞いしてやる!」
掛け声とともに回し蹴りに蹴飛ばされた火球は、隕鉄塊の隙間を器用に回避しながらテーナイトに迫り、下半身の核を僅かに溶かして火花と散った。
「はい全部叶えたから私らの勝ち。そーれ逃げろー!」
アメシストがからからと笑いながら逃げ去って行くのを、テーナイトは攻撃を受けて僅かに溶けた核を気にしつつも、それ以上は何もせず見送った。