社の内部は薄暗く、道具や依代の類すら存在しない、がらんとした寂しいものだった。
「クリスチャン、何か見える?」
「んーんー」
「そっかー……でもさァ、絶対何かあるんだよね。ボクの『眼』はビンビン反応してるんだもの」
「ほぇぁ」
2人は壁や床を叩きながら探索を続ける。数分ほど続けていると、不意に室内に低くしわがれた、まるで渇き死ぬ直前のような、それでいて異様な生命力を感じさせる声が響き渡った。
『おい、誰か居るんか。ガーデンの奴じゃァないよな? ちょいと下りてきて、儂を出しちゃァくれねえかイ』
「わぁ誰。これが正体かな」
ネコメの言葉に、声が反応を返す。
『おお、ヴマが居るじゃあねェか。儂の言う通りにせえな。まず、床の中央辺りを探れ、木の節が穴になって有るはずだ』
「ねこちゃんねこちゃん」
床に座り込んだクリスタルに呼ばれてネコメが床に伏せると、クリスタルがネコメの手を引き、床に開いた小さな穴に宛がった。
『見つけたか? 見つけたよなァ? そこに指でも突っ込んで、力いっぱい引け。板がずれる筈だ』
「あいあい。そォー……れえっ!」
ネコメが従うと、床板の1枚が僅かに動いた。板に手をかけて慎重にずらすと、板1枚分、小柄なネコメやクリスタル程度であれば辛うじて通り抜けられそうな隙間ができた。
『通れるなら抜けて来ぃ。ちと天井が低かろうが、直に楽になる』
「なるほどね? クリスチャン、先導してくれる?」
「ん」
まずクリスタルが床板の隙間に足から潜り込み、続いてネコメが頭から滑り込む。
子ども程度の背丈の二人でも四つん這いにならなければ進めないほど低くなった床下の暗闇を、クリスタルが時おり声をかけ先導しながら、二人は社の面積から大きく外れるほどの距離を進み続け凡そ1時間。不意に天井が高くなり、周囲が明るくなった。
「何だイ、こんなガキ共だったのかい」
社の中に響いていたのと同じ声が、今度は直接的に二人の耳に届いた。
2人が立ち上がり、正面を見やると、目の前の座敷牢のような狭い空間の奥に、ぼさぼさの銀髪を地面に垂れるほど伸ばし、ひどく汚れ破れた着流しの和装に身を包んだメタルヴマが座っていた。