手にしている缶コーヒーはまだ温かい。その温もりはいつまで続くだろう。冷めちゃうね、と呟くが返事は軽い頷きだけで、この人との間は詰められない。詰めてはいけないような隙間がある。その隙間を風は容赦なく通り抜けていく。この缶コーヒーを買った自販機はどこだっただろう、一体どれくらいの距離を歩いたか。何も話さずに二人が黙々と歩いているのが不気味だと思われないだろうか。今はそんなことも気にならない。ただ目の前にある背中を頼もしいなぁと眺めながらも、冷やかしてくる夕陽に目を細める。今日も良い一日になった。明日も晴れだといいな。そんな視線も気にせずに目の前の背中は遠ざかっていく。小走りで追いかける。この日々がいつまでも続くと思うのは間違いだろうが、そう願うのはきっと素敵なことだ。あの人の背中に手を伸ばす。まだ触れる勇気は出ない。缶コーヒーが冷めた。飲まずにポケットにしまう。家に帰って温めよう、と思ったそのとき手の冷たさに気づく。思わずあの人の手を見る、指先が微かに揺れている。この寒さが共有できた気がして、心がすこし温まる。まだ冷たい風が耳を撫でていく、背中に向けていた視線を足元に落として、少しひとりで笑みを浮かべる。