人影はしばらく藻掻いてからようやく体勢を変え、上体を起こした。
「ねえ君。これ、邪魔だから持ってて」
種枚さんがそう言って、人影の方を向いたままこちらに向けて奴の頭部をこちらに放り投げてくる。慌てて受け取ろうとしたけど、その頭部は自分の手をすり抜けて地面に落ちてしまった。
落ちた頭部を拾い上げようと何度か試しているうちに、人影の方に跳んでいっていたはずの種枚さんが自分のすぐ真横まで飛び退ってきた。
「持っててって言ったのに……」
「持てないんですよ」
「霊感無しめ」
「あいつはどうなりました?」
「どうもしてないが」
「えっ」
人影の方を見ると、たしかに上体をこちらに向けた姿勢で止まっており、種枚さんに何かされたようには見えない。
「距離が足りなかったんだよ距離が。……けど、これで十分」
心なしか、彼女の声色が少し低くなったような……。
「【推火爪】」
種枚さんが何か呟いた。と思うや否や、また姿が消え、次の瞬間には人影の身体が大きく弾き飛ばされていた。