自分の呟きのすぐ後、みしり、と空気の軋む音がヴィオラには聞こえた。
「…ヴィオラ?」
根っからの戦闘民族である彼女の耳は、漸くこの地下室で起こっている異変の音を捉えた。
「柊、しー…」「?」
ひゅうと空気が音を立てて耳を掠めた。ヴィオラが軽く足を捻ると、大きな黒い影が目の前をよぎり、壁に爪痕をつけた。
「ま…」
声をあげた柊を容赦なく脇で強く締め、足を振り上げる。
「ゔぅう…」
唸り声をあげた大きな狼の眉間にそのまま踵を叩きつけると、狼の目から黒いものが垂れた__その瞬間、ヴィオラの肩にひんやりしたものが触れる。
「ただいまヴィオラ。柊も」
「ニト?そんなこと言ってる場合じゃ__」
ヴィオラの耳のそばから、白い手が伸びる。__パチンッ!指が鳴ると、狼から黒い色が抜け落ち、床に吸い込まれた。狼はどしりと倒れ込む。
「噛まれたかい?」
「…ううん」
「そう。とりあえず、話そうか」