自分が住んでいる市には、図書館が3か所ある。そのうち、市のおよそ中央、市役所のすぐ隣に建っている市立図書館は、自分も個人的趣味や大学のレポート課題のためによく利用させてもらっている、割と気に入っている場所だ。
普段は人の入りもまばらで、静かで落ち着いた時間の流れる、リラックスできる場所なのだけれど、今日は違った。
「…………」
「…………あの」
「何。気にせず読み進めてくれて良いんだよ?」
「後ろから至近距離で覗き込まれてちゃ落ち着いて読めませんて……」
いつの間にか背後に迫っていた種枚さんが、無言で自分の呼んでいた本を覗き込んでいたのだ。しかも肩越しに覗く彼女の顔が、視界にぎりぎり入るほどの近距離で。
「………………」
小さく溜息を吐き、さっきまで読んでいた都市伝説に関する本を閉じた。
「あら、読んでたんじゃないのかい?」
「借りてって家で読むことにします」
「そうかい」
種枚さんに背後に貼り付かれたまま、その本と他に目に留まった小説2冊の貸し出し処理を済ませ、そそくさと図書館を出た。