時、9時30分。場所、老人の家の廊下。
運動能力の回復のため、今日も廊下を往復しようと部屋を出た時、玄関の方であの老人が怒鳴る声が聞こえた。
あの老人と共に過ごした時間は決して長かったわけでは無いが、あの善人が怒鳴るなんて何があったのか、疑問に思いそちらに歩いていくと、老人は客人と相対していた。
客人は2人。1人は、ひょろ長い体格の、背の高いスーツ姿の若い男。もう1人は、薄着の和装に身を包んだ、どこか軽薄そうな雰囲気の少女。男の方は知らないが、こちらはよく知っている。我が愛しの相棒、荼枳尼天、ダキニだった。
その姿を見とめた瞬間、ほとんど反射的に駆け出していた。十分に回復していなかったせいで転びそうになったが、ダキニが素早く抱き留めてくれた。
何故ダキニがここにいるのか、彼女に尋ねた。彼女によると、どうやらわたしやダキニの体内には、位置情報の発信機が埋め込まれているらしい。それならもっと早く迎えを寄越すこともできたと思うけれど。
ダキニとこの1週間弱、何があったのか話しているうちに、老人はあのスーツの男を家に上げていた。とりあえずダキニと連れ立って、彼らが入っていった居間に向かう。
その短い道中、再びあの老人が怒鳴る声が聞こえてきた。