「っ! 危ない!」
体重をほぼ0にして少しでも足を速め、大蜥蜴の前に飛び出す。奴は私に噛みつこうとしてきたけど、全身の質量増加で受け止める。
「モンストルムが外に1人いるはずです! 彼に指示を仰いでください!」
蜥蜴との押し比べに集中している中、辛うじて背後の人たちに向けて叫んだ。あの人たちが慌てて逃げ出す足音が聞こえてくる。彼らがいなくなれば、少しは安心できる。フェンリルは強いから、きっと彼らを守ってくれるだろう。
「がっ…………!」
突然、下腹に強い衝撃を受けた。大蜥蜴が高速で舌を伸ばそうとしたのだ。けれど、その程度で私の質量を動かせるわけが無い。衝撃で呼吸が止まりそうになりながらも、少しずつ大蜥蜴を押し返していく。
少しずつ、勢いを増しながら。少しずつ、速度を上げながら。少しずつ、エネルギーを増しながら大蜥蜴を押し返し、壁際まで追い詰める。加速を止める事無くそのまま壁に衝突する。建物の壁と私の質量で挟むようにして、大蜥蜴を押し潰す。鱗と筋肉と骨と内臓が潰れていく嫌な感触を感じながら、そのまま完全に潰してやった。
大蜥蜴の口が力無く開き、解放される。奴がもう死んでいることを目視で確認すると、私の身体は糸が切れたように勝手に倒れた。受け身もできず身体を床に打ち付ける。
そりゃあそうだ。あれだけダメージを受けたんだし、長いこと人間を庇いながら戦っていたせいで精神もずっと張り詰めっ放しで消耗しきっていたんだから。
「おーい無事かー?」
フェンリルが入ってきて、私に尋ねてきた。
「……フェン、リル…………、あの人たちは……?」
「あー? 死にたくなきゃ勝手に逃げろっつっといた。俺の近くにいるだけで能力に巻き込まれて死にかねないからな」
「……大丈夫かな…………」
「大丈夫だろ。インバーダはほぼ全滅状態だったしな。お前の時間稼ぎの賜物だな。お前が目立ってたお陰で、他のモンストルムもこの辺にはあまり近付かなかった。マジでお前、よくやったよ」
「…………そっか」
そこで私の意識は途切れた。