時、14時12分。場所、インバーダ対策課のメンテナンスルーム。
ダキニの『協力』のおかげで、私はあの漁村に留まれることに決まった。と言っても、外傷の治療のため、一度古巣の大都市に戻る必要はあったわけだが。
老人にしばしの別れを告げ、スーツの男の乗って来た自動車で帰還し、現在はメンテナンスを受けている。
全体的な治療を済ませ、寝台の上で安静にしていると、ダキニが軽やかな足取りで枕元にやって来た。
彼女曰く、相棒である私について、あの漁村まで来てくれるとのこと。私には恩義があるが、ダキニにとっては何の思い入れも無いはずだろう。それについて問うと、彼女は私を救った恩をあの村に覚えているのだとか。
私の愛しい荼枳尼天の異能は、『人間の守護』に主眼を置いている。あの小さな村を守るためには有用だろう。
彼女の申し出に感謝して、私はひとまず眠りに就くことにした。傷は癒えた。体力の消耗も明日まで眠れば回復するだろう。
明日目覚めたら、朝一番であの村に帰ろう。道は覚えているし、足はダキニに頼めば良い。対策課の人間に頼めば、もしかしたら車ぐらい出してもらえるかもしれない。
あの漁村でも、きっと私は戦いに身を投じることになるだろう。しかし私の心は不思議と、これまでの淡泊な義務感とは違う、奇妙で幸福な高揚感で満たされていた。