「犬神ってモグラみたいな姿してたんですね」
「まあ、名前からは想像しにくいよねェ」
「……そういえば、なんで犬神が憑いてると土が操れるようになるんです?」
そう問うと、種枚さんは足を止め、顎に手をやってしばらく考え込んだ。
「……これは完全な私の想像なんだけど、それで良ければ」
「お願いします」
種枚さんは再び歩き出し、話し始めた。
「まず君、そもそも犬神がどうやって作られるのかは知っているかい?」
「知りません。そもそも作れるものなんですか?」
「ああ。犬神は呪術的な方法で人工的に生み出すことのできる怪異だ。その製法にはいくつか伝承があるんだけど……その一つが、生きた犬の首から下を地面に埋めて、飢えさせるってものなんだよ。その後ももう少し工程が挟まるけど、そこは大して問題じゃない」
「はあ」
「犬神は生前、土の中で身動きを取れず死に向かう苦痛を味わう訳なんだ。つまり、あの生き物はあらゆる怪異の中で、実体験として最も『土壌の恐ろしさ』を知っているんだよ。それが関係しているんじゃあないかな、って」
「なるほど……?」
話しているうちに、駅に着いた。
「ああ、君は返ってくれて良いよ。私は徒歩で帰るから」
「……さいですか。では、失礼します」
当然のようにとんでもないことを言う種枚さんに会釈して、改札を通った。