大きな駅に直結する大規模商業施設の片隅にて。
1人の赤髪にキャップ帽のコドモが鼻歌交じりに通路を歩いている。
赤いスタジャンのポケットに両手を突っ込みながら歩くコドモは、ふと何かに気付いたように書店の前で足を止めた。
書店に入ってすぐの料理本売り場で、見覚えのある人影が本の立ち読みをしている。
外套に付いている頭巾を被っているものの、赤髪のコドモには誰だかすぐに分かった。
「おい」
赤髪のコドモがその人物に近寄って声をかける。
頭巾の人物はビクッと飛び跳ねて立ち読みしていた本を閉じ、平置きされている本の上に置く。
「なーにやってんだよ」
ナハツェーラー、と赤髪のコドモはにやける。
「…」
ナハツェーラー、もといナツィは頭巾を外しつつ赤髪のコドモの方をちらと見た。
「お前か」
「そうだぜ」
露夏だぜと赤髪のコドモは笑う。
「それにしても珍しいな、お前が本屋になんて」
何読んでたんだ、と露夏がナツィの方を覗き見ると、平置きされている本の中に先程まで読んでいたと思しき本が無造作に置かれていた。
「えーと、なになに…“初めてでも簡単☆チョコレート菓子”ってなに、お前こういうの読むのかよ」
露夏がタイトルを読み上げると、ナツィはちょっ、やめろテメェと恥ずかしそうにする。