(これ……間に合うか……?)
ブロックを生成しながらエベルソルらの後を追うぬぼ子の背中を見送りながら、ロキは周囲の様子を観察していた。
倒れた状態のエベルソルは絡み合ってすぐに動ける状態には無い。抜け出した2体は大ホールとの距離を10m以下に縮めている。後続の群れはすぐには到達しない。前回のぬぼ子の攻撃からの経過時間から予測するに、彼女はあと5秒程度、攻撃できない。まして、大質量の攻撃はエベルソルが建造物に接近し過ぎると巻き込む危険性から使えない。
(これは……ぬぼさんはギリギリアウトかー…………)
光弾を4発描き、エベルソルに2発ずつ撃ち込む。ソレらの脚に命中し、僅かに歩調が遅れるが、しかし歩みが止まることは無く、依然としてエベルソルらは突撃を続けている。
「…………うん。諦めよう」
ホールから目を離し、倒れたエベルソルの対処に向かう。
「ぬぼさんには、もうどうにもできない。私にも何もできない。だから」
ホールに向かっていたエベルソルの足が止まった。ホール屋上から響く電子音楽に注意を引かれたのだ。
「何とかできる人に何とかしてもらう」
「ロキィ! 何馬鹿やってンだ!」
カセットプレイヤーを高く掲げたタマモが、ホールの屋根から呼びかける。
「タマモならギリギリ間に合うかなー……って」
「俺があっちでガチってなかったら間に合ってなかったんだぞ?」
「ま、私達の芸術は破壊者には分かりにくいからね。1人になれば何とかなる気はしてた」
「コイツ……あ、ぬぼ姐さんオツです」
屋根を挟んで軽口を叩き合っていたタマモとロキだったが、不意にタマモが屋根から飛び降りながらぬぼ子に会釈した。
「タマくん。正面はもう大丈夫なんだ?」
「ええまあ。ウチの相棒が迷惑かけませんでした?」
「ううんー、むしろ助けられちゃったよ」
「ハハッ」
平坦に笑いながら、タマモはロキに近付いた。彼の持つカセットプレイヤーから流れる音楽に釣られて、エベルソルらもそれをゆっくりと追跡する。