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視える世界を超えて エピソード6:月夜 その④

「仕方ないなァ。軟弱なお前のために、一度休憩するとしようか。畜生、まだ暴れ足りないってのに……」
もう1枚のパーカーを脱いで腰に巻きながらそうぼやく種枚に溜め息を吐き、鎌鼬は思い出したようにポケットから缶コーヒーを取り出し、栓を開けた。
(…………あ、師匠。また角生えてる……)
コーヒーを飲みながら、鎌鼬は苛立ちながらシャドウボクシングをする種枚の姿をぼんやりと眺めていた。彼女の額、両の眉の上には、頭蓋が内側から盛り上がったような短い角が生えており、また口の端は通常の倍ほども裂け、肉食獣のような牙が隙間から覗いていた。
(あの人、興奮が極まるとちょっと見た目が人間から外れるよなぁ……。俺なんかよりよっぽど生きてちゃマズいんでは?)
飲み切ったコーヒーの空き缶をどうしようか少し悩み、鎌鼬はそれを結局元のポケットに仕舞い直した。
「ンア。休憩は終わったかい?」
鎌鼬の動きを目敏く見とめ、種枚が振り返る。その全身からは濃い湯気が立ち上っていた。
「いや、もうちょいゆっくりさせてくださいよ……」
「チィ、つまらん」
「師匠、もう少し落ち着いてもらって……」
その時、重い衝撃音と振動が二人の下に届いた。
「ッ⁉ 師匠、今のって!」
音のした方向を反射的に見た後、鎌鼬はすぐに種枚の方に振り返る。彼女の表情は、鎌鼬の予想通り残虐に歪んでいた。
「今日会った奴、どいつもこいつも軽くて物足りなかったんだ」
そう言って瞬間移動並みの速度で音源に向けて駆けて行く種枚を、呆れたように溜め息を吐いて鎌鼬も追いかけた。

  • 視える世界を超えて
  • 種枚さんは人間だっつってんだろ
  • 生きてちゃマズい存在なのはそう
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