「……誰だい」
種枚は倒れたまま声の方へ目を向けた。彼女から10mほど後方に、抜き身の日本刀を携えた小柄な少女が立っている。
「そいつは、私の獲物だぞ!」
威勢よく言う少女を睨み、億劫そうに立ち上がってから、種枚は一瞬で少女との距離を詰めた。片手は刀身を強く掴み完全に固定し、攻撃の余地を潰している。
「ひっ⁉ お、鬼……⁉」
怯える少女の顔を無表情で覗き込み、背後から肉塊怪異の気配を感じながら種枚は口を開いた。
「……本当にやるのかい?」
「……へ?」
「あれ、君が殺すのかい?」
「っ…………や、やってやる!」
「そうか。頑張れ」
刀から手を放し、少女の肩を軽く叩き、怠そうに少女より後ろに退避していった。
「本当にあの子に任せちゃうんです?」
種枚の隣に下りてきた鎌鼬に問われ、種枚は目だけを向けた。額には既に角は無く、口も人間のそれに戻っている。
「ああ、真剣持ってたし、本人がやるっつってたんだし、別に任せて良いだろ」
「え、あれ本物だったんですか⁉」
「うん。手ェ切れるかと思ったよ」
からからと笑いながら種枚は手近な民家の屋根に上がり、肉塊怪異と交戦する少女を観察し始めた。