季節が過ぎるのはいかに早いことか。雨上がりで、息をするたびに蒸し苦しい空気が体のなかに入ってくる微妙な朝。ここから、華やかな大声援団のなかドラマが生まれるまで、1か月。俺たちは県大会の初戦を迎えた。
昨秋の余裕ぶった表情はない。この一年の苦しさ。悔しさ。自分達の弱さが目に見えて、いやになった日々。全てはこの夏のために。
メンバーを見渡す俺。キャプテンの俺は声をかける。
「皆。ここまで本当に苦しかった。あの日負けて常勝が崩れて、ここにいる全員が悔しい思いをした。俺らにかけられてきた信念と誇り。それがどんなに重いかを知って、打ちのめされた。その思いを、全国の。甲子園の。黒土に埋めて、幸せを誇りを持って帰ってこよう。ここから、ベストをつくそう。俺たちが一番、強いチームになるんだ。いいな!」 『おし!!!』
このチームなら、やれる。ここから、俺らの。一回しかない夏が始まった。