「や、新人くん」
先に待っていた新人くんに挨拶する。新人くんはまだ13歳か14歳程度の細っこい男の子で、濃紺のロングコートを纏っていた。
「ぬぼ子さん、急に手伝いなんか頼んじゃってすいません。今日はよろしくお願いします」
「良いんだよぉそんなに恐縮しなくて。後輩のお世話も私たち先輩の仕事だからね。君も成長したら、自分より後輩の子を助けてあげるんだよ?」
「はい、それじゃあ急ぎましょう。俺が乗り物を用意します」
そう言って、新人くんは素早く空中に何かを描き始めた。流れるような動作で、迷いなくぐいぐいと描き進め、みるみるうちに2頭引きのチャリオットを完成させてしまった。
「ほら、乗ってください」
「うん……動物描くの上手いねぇ」
言いながら、恐る恐るその戦車に乗り込む。初めて乗るチャリオットはなかなかアンバランスで乗り心地が悪かった。もちろん、口にはしないのだけど。
「では、行きますよ!」
新人くんが手綱を振るうと、2頭の馬が駆け出し、チャリオットは空を走り始めた。
「うわぁ! 飛んだ⁉」
「ほら、天高く、って言うでしょう?」
「越ゆるのかー」
そもそも今の季節は春では……? まあ良いや。
彼の駆るチャリオットは彩市上空をすごい速度で飛んでいき、あっという間に目的地へ到着した。
外見上はただのアパート。しかしてその実態は、ほぼ全室に腕利きのアーティストが居住、あるいはアトリエとして利用しているという、彩市民の間ではそこそこ有名な芸術家の集まるアパートだ。
そしてその一室に首を突っ込んでいる、大理石みたいな質感のエベルソルが1体。新人くんに任されているだけあってか、そこまで大きいサイズではないみたい。