「マジかー……刃の内側まで潜れば安全圏だと思ったんだがなァ」
床に落ち、断面を接ごうと蠢く鼠色の物質。鳩尾の辺りまで食い込んだ刃を抜き、大きくよろめく青年。私は改めて、彼らが人外の怪物であることを認識した。
「……これだけ斬っても死なないとなると、ちょっぴり傷つきますねぇ……。俺、これでも両翼揃ってた頃は優秀な戦士で売ってたんですよ?」
「へェ。そいつァ素敵な売り文句だ。しかしこちらも“死神”で売ってんでねェ……。そうそう『死』を押し付けられるような真似しねェさ」
「えっ何それ初めて聞いた」
「ウン言ってねーもん」
「さて……話しているうちに傷もだいぶん塞がりました」
青年は長剣をまた放り捨て、代わりに全長50㎝足らずの片手剣を手にした。
「『長くて重い』はたしかに『強さ』ですけど、同時に速さを邪魔する『枷』でもありますから。解決法は簡単な話、『短くて軽い』で代用すれば良い。どうせ刃が当たれば斬れるんだから」
「わぁお強ェ奴の言葉って感じだ。その調子で頑張って、削り切ってもろて」