呪術師の男性、イユ、サユリが一足早く現場に駆け付けると、中年男性が血のついたナイフを振り回しながら滅茶苦茶に周辺の人間に切り付けようとしていた。周囲には数人、倒れている人間も見られる。
「イユ!」
「あー? 私に何か頼むんじゃねーぞ? 殺すぞ?」
「……分かったよ。サユリ、悪いけどあの人の気を引いてくれる?」
「了解です、マスター」
通り魔の男にサユリが滑るような動きで接近する。それに気付いた通り魔は彼女に向けてナイフを突き出したが、サユリはそれを片手に突き刺させることで止め、通り魔が動揺している隙にナイフを持っていた手ごと捕える。
「捕えました」
「ありがとう、これで……!」
男性はボックスから封人形を1つ取り出し、通り魔の男に向けて投げつけた。まっすぐに飛んでいったそれは通り魔の額に直撃し、そこを起点に暗紫色の煙のようなエネルギーが渦を巻いて噴き出した。
数秒後、エネルギーの渦から気絶した通り魔が吐き出されるように放り出され、渦が霧散する。そこには、白いワンピースを着た少女が立っていた。
「んー、細っこいがなかなか背ぇ高い子ができたじゃん。なァ呪術師?」
少女を見ながら、イユが笑う。
「そうだね……これで終わりなら良いんだけど……」
少女は枯れ枝のように細い自分の手足をしばらくぼんやりと見やり、不意に呪術師の男性の方に顔を向けた。
「……あなたが、わたしをつくってくれたんですか?」
「えっ、あ、ああ、そうだけど……」
少女はふらふらとした足取りで男性に近付いてきた。
「ありがとうございます、わたし、あなたのおかげで今、ここにいるんですね……」
少女がふわふわとした口調で言いながら距離を詰め、手が届くほどの至近距離にまで辿り着く。
「このご恩……どうお返ししたらいいか…………」
少女の伸ばした腕を、ちょうど追いついたばかりのソラが掴んで止めた。