音のした方に足音を殺して慎重に歩いて近付く。それにつれて、誰かが言い争うような声も聞こえてきた。
発生源らしき部屋の入り口から顔だけを覗かせて中の様子を見てみる。
私よりいくらか年上に見える少年2人が掴み合って言い争っていた。……掴み合ってというよりは、パーカーの少年の方が一方的に掴みかかっている感じだろうか。捕まっている方も負けじと言い返しているから、どっこいどっこいだろうか。
「……もう良いや」
掴みかかっていた方は急にすん、と落ち着いて相手を放り出した。そのまま備え付けの椅子の方に歩いていく。喧嘩に疲れて休むんだろうか。椅子の背もたれに手をかけ、引いて、持ち上げ…………持ち上げ?
「死ねや塗り絵野郎がァッ!」
そのまま椅子を使って相手を殴りつけた。脚が相手の肩の辺りに直撃し、相手はその場にひっくり返った。
持つ部分を背もたれから脚の側に持ち替え、倒れている方にまた殴りつける。2度、3度、4度目を振り上げたところで、流石にマズい気がしてきたので止めることにした。
素早く背後に回って持ち上がった椅子を掴み、そのまま自分の方に思いっきり引っ張る。体重も使ってどうにか取り落とさせることに成功した。
「誰だ邪魔しやがっ……!」
少年と目が合う。怒りに染まっていた彼の目は、一瞬で冷静なものに戻った。
「ホントに誰だお前?」
「……新入りです、初めまして」
「おう初めまして」
「ちょっとここの案内とかお願いしても?」
「…………」
彼は怪訝そうにこちらを見下ろしている。
「いろいろ聞きたいですし」
「……あー分かった。じゃーなガノ」
殴られていた方の少年は気を失っているようだった。一応彼にも会釈して、部屋を後にした。