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視える世界を超えて エピソード7:潜龍 その⑨

「犬神ちゃん、まさか……」
止めようとしたけれど、遅かった。犬神ちゃんはその戸を勢いよく開け放ってしまったのだ。
薄暗い本殿の奥、大黒柱の根元に、人影が見える。あれは生きた人間……というより、まさに自分たちが探していた種枚さんだった。
大量の拘束具で身動き取れない状態にさせられている、あまりに痛々しいその状況に反して、彼女はリラックスした様子で目を閉じ、眠ってでもいるようだった。
「……今、何時だい?」
不意に種枚さんが口を開く。寝ていたわけじゃ無かったのか。
「まだ3時前だよ。キノコちゃん」
種枚さんに近付きながら、犬神ちゃんが答える。
「そうか。まだそんなものか。犬神ちゃん、これ、外せるかい?」
「無理。できたとしてもやってあげない。キノコちゃん、こないだのデートすっぽかしたでしょ。私、怒ってるんだからね?」
「悪かったよそれは……見ての通りガッツリ捕まっちまっててさ」
「どうせ逃げようと思えば逃げられるくせにー」
「誰だって痛いのは嫌なものさ。じゃ、6時になったら教えておくれよ。うっかりでも祭りに水を差すような真似はしたくないからね」
軽口を叩き合いながら、犬神ちゃんは種枚さんの目の前に座り込んだ。
このあまりに軽妙な空気感に、自分はただ誰かに勝手に入っているのを見られやしないかと不安になることしかできなかった。逆に言えば、それ以外に心配するようなことは、既に無かったと言えた。

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