頭が痛い。
身体がとんでもなく重たい。
傷は右腰と左肩。
左肩は脇差が刺さったままなのが唯一の救いだ。
しかし、右足、左腕はもう使い物にならない。
ああ、このままここで死ぬのか。
「お主、ここで何をしていんすか。」
不意に、誰かが顔を覗き込んだ。
化粧をした女の顔をみたところで、ぷつりと意識が途切れた。
(...生きてる...?)
次に目覚めたのは、見慣れない座敷だった。
「おや、起きたでありんすか。」
耳慣れない言葉に振り向くと、隣には遊女が煙管を片手に座っていた。
「誰...?」
「わっちは縁野紅(えんのくれ)。昨夜、ここの廓の辺りで倒れていたお主を、わっちが拾いんした。」
どうやら、刺されて彷徨っていたら、花街の辺りまできてしまったらしい。
「...助けてくれてありがとう。でも、もう行かなきゃ。」
「どこへ?」
眉を釣り上げ、若干食い気味に聞いてくる遊女こと紅さん。
「お義父さんのところ...」
と言ってから、少し紅さんを見る。
紅さんは一瞬目を細め、ゆっくりと告げた。
「あの男なら、もういんせん。」
「!...死んだの...?」
「さぁ。生きていても、恐らく当分、花街の辺りにはきんせん。」
そして、紅さんは続けた。
「何故、そんなに帰ろうとしんすか。」
廓言葉って地域ごとに違ったりもするらしいですよ(大学の近世文学の授業で習った)。
まぁ虚構の世界なら多少何か間違ってても問題はないので、大丈夫だと思います。