「大丈夫か?」
せんちゃんが走るのをやめて、振り返る。
「いや…うーんと…あれ?『神隠し』は撒けたの?」
ゆずが尋ねると、せんちゃんは眉を寄せた。
「…あれ…私は一体なにから逃げてたんだろう」
「はぁ?」
せんちゃんがおかしい。ゆずの訝しげな視線に、せんちゃんは困った顔をして進行方向に向き直る。暫くその先を見つめ、また振り返った。
「…幻覚を見てたっぽい」
「幻覚?」
「いるんだ、たまに。死んだ自分と同じ目に遭わせてやろうとする幽霊」
「神隠しの幻覚を見たってこと?」
ゆずがせんちゃんの側に寄ろうとすると、せんちゃんがゆずを手で制した。
「そういうこと。この先は崖だ」
「えっ?」
よく目を凝らすと、1メートルくらい先から地面がなかった。
「危な…」
「ギリギリだったな」
せんちゃんが崖を背にしてゆずの手を引き歩きだした。ゆずもそれについていく。
_落ちれば良かったのに。
崖下から聞こえた声は聞こえないふりをした。