そして3つ目。どんな世界でも、どんな社会でも、必ず「あぶれずにはいられない者」というのは現れるものですが、そんな人たちが追いやられ、死にさえしなければ辿り着ける最後の希望。“危険なセーフティ・ネット”……これは私だけが呼んでる異名ですけど。ヒロマレヒロマレ。そのエリアを人呼んで、〈ブラックマーケット〉。基本的には地表から広がっていますが、時々他のエリアが位置するはずの高さにまで侵食し、食い込んでいることもありますね。正確な規模や面積すら把握しきれていない、世界の暗黒面ですよ。
このエリアでは、“地上”や“天界”の法なんて意味を持ちません。ここで意味を持つのはたった一つ簡単なもの。『商品価値』です。
「才能」でも「人手」でも「物品」でも、価値ある『何か』が提供できること。それが〈ブラックマーケット〉で生きるための条件です。ああ、別に無くても良いんですよ? 『価値』は客観的なものですから。人間、生きているだけで如何様にも使えるものです。
……それで、何の話でしたっけ? ああ、そうでしたそうでした。戸籍も記憶も何も無い。そんな貴方に『世界』のことと『生き方』を教えてあげるって話でしたね。
ようこそ我らが唯一最後の居場所〈ブラックマーケット〉へ。私たちはあなたを歓迎しますよ。分からないことがあったら何でも聞いてください。私は“情報屋”ですから、あなたの『商品価値』の限り、喜んで私の『価値』―情報をお返ししましょう。