「ではお主、今までの事や、自分の名すら覚えていない、と...?」 私は黙って頷く。 うーん、と二人揃って考え込み、暫くたった頃。 紅さんが手を叩いた。 「そうでありんす、お主、何か荷物などは持っていんすか?手拭いでもかまいんせん。もしや、名がかいてあるかも...!」 成程。それは盲点だった。 慌てて懐に手を突っ込む。 出てきたのは、小刀、手拭い、空の財布だった。 いずれにも記名はなく、家紋すらない。 「また振り出しでありんすね...」