種枚は獣道とすら呼べないような悪路を、散歩でもするかのように無造作に軽やかに進んでいた。その後を青葉も必死で走るように追い、どうにか食らいつく。
(は、速い……。やっぱりこの人、実は鬼なんじゃ……?)
青葉は進みながら、種枚と初めて会った夜を思い返していた。一瞬顔を突き合わせただけではあったものの額に確認できた2本の短い角、一瞬で数mの距離を詰めるほどの身体能力、抜き身の刀身を躊躇無く掴む度胸とそれを可能にするだけの耐久力。彼女の知る種枚の要素の悉くが、人外のそれとしか思えないものだったのだ。
「なァ君、大丈夫かい?」
種枚から声を掛けられて、青葉は意識を種枚に向けた。
「はい?」
「いやァ、随分と息が上がっているようだったんでね。休むかい?」
「いえ、まだまだ大丈夫です」
「へえ。それならもうちょい加速するか?」
「⁉ ……が、頑張ります」
「嘘だよ。のんびり行こうぜ」
そう言って、種枚は手近な木の根元に座り込んだ。