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五行怪異世巡『天狗』 その⑥

「そっちかァ!」
音のした方に駆け出そうとした種枚を、今度は青葉が制止する。
「待ってください、種枚さん!」
「ア?」
「今の音……多分、何もありませんよ」
「何ィ?」
「そういう怪現象の話を聞いたことがあるんです。天狗の名を冠する怪異の一つです」
「へェ……」
しかし、種枚を止めようとしてそちらに注意を向けたのがいけなかった。
2人の背後から、先ほどより大きな破壊音が聞こえてくる。そちらに2人が目をやると、高さ10mは優に超える大木が、2人に向けて倒れてくるところだった。
「あっははははは! ボクの目の前でのんびりお喋りなんかしてるから! キミらみたいな注意散漫で生意気な子たちには、こうして『実害』をくれてやっているのさ!」
大木が倒れ土煙が巻き起こる中、天狗の楽しそうな笑い声が周囲に響く。
「さてさて、流石に死んだかな? 1人くらいは生きているかな?」
言いながら天狗が姿を現し、少しずつ薄れていく土煙に、スキップでもするかのように軽やかに近付いていく。
大木の倒れ込んだ位置から2mほど離れた位置で立ち止まり、その場で覗き込む。にやけたようなその表情は、すぐに険しいものに変わった。
「……これが『実害』、ねェ? だいぶ舐められたモンだ」
「いや、普通人間は木が倒れてきたら潰されちゃうものですよ」
種枚と青葉の気軽なやり取りが聞こえてくる。土煙が完全に晴れたその場には、倒れてきた木を種枚が片手で軽々受け止めている姿があった。
「くそ、何だよこの人間! 化け物か⁉」
そう吐き捨て、天狗は姿を消した。
「オイオイ何逃げてンだァ⁉ 私とやろうぜ!」
そう吼え、種枚は天狗が逃げていったと思しき方向に駆けて行った。

  • 五行怪異世巡
  • 種枚さんを常識で測ってはいけない
  • 10mって大木のラインでいいのかね
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