「……ようやく手が届いた」
そう呟いて青葉は倒木の下から飛び出し、天狗に斬りかかった。天狗は仰向けに倒れ込むようにしてそれを回避する。
「な、なんで⁉ なんで生きてる⁉ お前はただの人間のガキだろ⁉」
動揺してまくし立てる天狗に構わず、青葉は天狗が立ち上がる前に左肩を片足で踏みつけ、喉元に〈薫風〉の切っ先を突き付ける。
「捕まえた」
「ッ……! ば、馬鹿にするなよ! ボクは『天狗』だぞ!」
天狗がそう叫ぶと、青葉の足元の土が風で舞い上がった。土煙の目潰しに思わず身を捩り、足が天狗から離れてしまう。
(離れた! このまま姿を消して仕切り直す!)
“隠れ蓑”を使い、起き上がろうとする。しかし、それは叶わず再び地面に倒れ込んでしまった。何者かに足首を強く掴まれ、片脚が使えなくなっていたのだ。
「なっ……⁉ お前ら、2人しかいなかっただろ! 一人は離れた場所に誘導しておいた! これ以上どこに人手があるっていうんだ! 誰だよ⁉」
「あぁ……それは私も気になってたんだ。さっきは助けてくれてありがとう。名前くらいは聞いておきたいんだけど?」
喚く天狗に便乗するように、青葉は倒木の方に向けて問いかけた。それに応じるように、倒木が粉砕され、身長に対して異様に細身で華奢な印象の和装の少女が現れた。
「ああ、ワタシの可愛い青葉。勿論その質問には答えさせてもらうよ! ワタシの可愛い青葉にワタシを呼んでもらえるなんて、何て素敵なんだ!」