「我らが祭神、爽厨龍神大神でありましたか。ここまでの無礼、こちらの娘の分も含め、深くお詫びしたい」
「えっ、あ、お、おお我が忠臣よ、ようやく理解したか大馬鹿者め」
「面目次第も無く……」
子どもは武器を下ろし、元の和装の普段着の姿に戻った。
「いやしかし、強かったねェ祭神サマ。何つったっけ?」
2人に近付いてきた種枚が、どちらにとも無く話しかけてくる。
「爽厨龍神大神。人の子は我をそう呼ぶのだ」
子どもの答えに、種枚は複雑な表情をした。
「長いな。もっと縮めた愛称とか無いのか?」
「貴様、仮にも神格を『愛称』で呼ぼうって言うのか⁉」
「殺せば死ぬ奴ァ何でも人間と同格だろ?」
「な、お、貴様ぁ⁉ 最早清々しい奴め!」
「で、どう呼べば良い? 『さっちゃん』とでも呼んでやろうか?」
「やめいやめい! そのような我の威光の欠片も感じられぬ渾名を使うのは!」
「チィ……なら『リュウ』で。龍神だから『リュウ』。強そうだしこれで良いか?」
「むぅ……まあ、良かろう。では、我はもう帰るからな! まったく、せっかく顕現してやったのに、こんな手荒な真似をするとは……」
ぼやきながら、リュウは姿を消した。
「……しかしよォ、潜龍の」
「何だ」
「ここの祭神って、龍神だったんだな。“潜龍神社”の名前は祭神とは無関係だと思ってたよ」
「無関係だぞ。祭神が龍なのは単なる偶然だ。そもそもこの街の北にそこそこの川が流れているだろう。龍神信仰が興ること自体は自然な地形なんだよ」
「あー……たしかに」