鳩尾への攻撃で呼吸を潰されたサツキは、抵抗できないまま押し倒されているうち、自分の首にかけられた“魔女”の手の力が緩んでいることに気付いた。
顔に垂れてくる涙と涎の混合液を左手で拭っていると、完全に脱力した“魔女”の身体が、サツキ自身に重なるように崩れ落ちた。咄嗟にその背中に手を置くと、掌にはべったりと彼女から流れ出した血が付着する。
(『ダメージを共有する魔法』…………こんな痩せた身体で、何度も私が殴った後で、私よりずっと辛かっただろうに……)
「あ、そうだ。こんなことしてる場合じゃない!」
サツキは“魔女”を抱え、舌打ちの音で『反響定位』を開始した。
(現在地と、方向……良し。あと少し、頑張れ私)
短距離転移を繰り返し、サツキは彼女が通う中学校の屋上に倒れ込むように到着した。
(マズい、流石に出血し過ぎた……ちょっと、もう動けないかも……)
「…………ヤヨイ!」
最後の力を振り絞り、サツキが呼びかけると、倒れる2人の傍に一人の少女が近付いてきた。
「はいはいお姉ちゃ……うっわ何その傷!? あとそっちの子誰⁉」
「えっと……」
(そういえば、この子の名前は聞いてなかったな……起きたら教えてもらおう)
「えっと、私の友達。この子のこと、治してくれる?」
「……分かったよ。あとですぐお姉ちゃんも治すからね?」
ヤヨイと呼ばれた少女は素早く変身し、片手に握ったライトメイスの鎚頭で、“魔女”の頭を軽く小突いた。
「ほぃ治療完了。お姉ちゃんも治すから……うっわなんで両目潰れてるの怖っわぁ……」