“潜龍夏祭り”は打ち上げ花火大会も同日に行われ、世の児童生徒学生の多くは夏休み期間中ということもあり、大盛況となった。
神楽の演目も終わり、少しずつ祭りがお開きの雰囲気となった時、犬神は本殿の前の賽銭箱に腰掛けていた。
「…………あ、来た」
賽銭箱から飛び降り、犬神は舞殿からやって来た人影、平坂に近付いて行った。
「や」
「……犬神、だったか」
「うん」
2人は5mほどの距離を取って話していたが、不意に犬神が、参道横の砂利を勢い良く蹴り立てた。
「…………あれ?」
しかし、犬神の予想に反して、砂利は何事も無く放物線を描き、そのまま落下する。
「貴様、仮にも神域で妖怪憑きの身が好き勝手出来ると思うなよ?」
「ちぇー。いっつもキノコちゃんいじめてる復讐ができると思ったのに。まあ良いや」
「何の用だ」
「ん? 仕返し」
「それ以外の要件だ。そんなことのために遠出するようなタマじゃないだろうが」
「む……バレてたか」
犬神が懐から財布を取り出しながら、平坂との距離をさらに詰める。
「ねえ、この神社っていくらでお祓いとかしてくれる?」