歪みの中から現れたのは、ピンク色のテディベアの頭部。数十倍の大きさに膨張し、鋭い牙の並んだ口が大きく開かれている。
ソレがこの奇襲的攻撃に対応できたのは、殆ど奇跡といって良かった。
テディベアの顎が高速で噛み合わされる直前、そのビーストは反射的に身体を丸め、尾で地面を打つことで僅かに加速する。結果として尾の先端を僅かに噛み切られたものの、その全身は口腔内にすっぽりと収まった。
「よし、成功!」
テディベア越しに、くぐもって少女の声が聞こえてくる。ビーストの『捕食』に成功したと確信しているらしい。口内で姿勢を整え、テディベアの舌を足場に強く踏み切り、口蓋を蹴り破る。
「⁉」
生物的な体組織が突き破られる感覚とは異なる、綿と布地を突き破る感触と共に、ビーストの身体はテディベアの外に解放される。その瞬間、ビーストの頭部をフィロの短槍が貫いた。
「完璧な誘導だったよ、サヤちゃん。ササちゃんもよくヤツをこっちに引きずり込んでくれた」
「うん。クマ座さんはやられちゃったけど……」
ササは頭部の弾け飛んだテディベアの手足を、小さな手でぴこぴこと弄り回す。
「……よし、ギリギリ使える」
「オーケイ。そォら!」
フィロが槍を引き抜き、支えを失って倒れ始めたビーストの身体に、“クマ座さん”の両手の爪が迫り、無抵抗の肉体を細切れに引き裂いた。
「しょーりっ」
「よくやった」
空間歪曲を通って、サヤも2人のドーリィに合流する。
「サヤ! 勝ったよ」
「ほんとぉ? やったぁ」
「ん、これで全員集合かい。じゃ、治すからね」
フィロはそう言い、魔法の仕込みで細切れにしていた左腕を瞬時に再生させた。