ビーストに向けて突撃しながら、キリは自身の左腕をちらと見る。己の小麦色に焼けた傷だらけの肌とは明らかに異なる白く滑らかな皮膚と、掌に色濃く刻まれた、蔦草の絡み合った輪のような紋様。
「…………」
ビーストに視線を戻す。首の内の1本が、彼女の頭部目掛けて大口を開けて迫っていた。
「……ヴィス!」
そう言い、右手の剣を捨てて手を叩く。直後、鼻から上をビーストの顎が噛みちぎっていった。
「……………………ざぁんねぇんでぇしたぁ」
下半分だけ残った頭部をじわじわと再生させながら、口から挑発的な言葉を漏らす。完全に再生したその顔は、ヴィスクムのものだった。
「もうスワップ済み」
にぃ、と笑い、ヴィスクムは短距離転移によってビーストの上空に移動する。手を叩き、地上のキリと入れ替わって地面に突き立てていたままの剣のうち2本を、上空に移動したキリに向けて投擲した。それらをキャッチしたキリが首の1本を、ヴィスクムが別の剣2本を手に心臓を狙い斬りかかる。
2人の攻撃が届く直前、ビーストの頸の1つが口から黒紫色の霧を吐き出した。
(っ!)
それを見たヴィスクムは転移魔法によって距離を取り、スワップでキリと入れ替わる。
「ふぅ……毒吐くなんてズルいじゃん。キリちゃんはただの人間なんだから死んじゃうよ」
先程生成していた固有武器を1度消し、再び手元に生成する。
「それじゃ、ここからは私だけでお相手するね」
ビーストの頭部の1つが口を開けてヴィスクムを飲み込もうと迫る。ヴィスクムはそこに剣の1本を投げ、軟口蓋に深く突き立てた。その首は滅茶苦茶に振り回され、喉からは苦痛の咆哮があがる。続いて2本の頸が叩きつけられたが、それは跳躍によって回避し、ヴィスクムは頭部の一つに着地した。