少し離れた建物の屋根の上から、毒霧を眺めていたキリの隣に、ヴィスクムが転移魔法で現れた。
「ヴィス、倒した?」
「ごめんまだぁー」
「じゃあなんで戻って来たの……」
「いやぁあはは……。あ、そうそうキリちゃん。1個お願いがあってね?」
そう言いながら、ヴィスクムは右手の小指を立ててウインクしてみせた。
「指1本で良いんだけど、貸してくれない?」
「それくらいは別に」
キリの差し出した右手に、ヴィスクムは左手を叩きつけた。
「ありがと、キリちゃん。それじゃあ行ってくるね」
「ん」
ヴィスクムは短距離転移によって再びビーストの頭上に移動する。
「お待たせ、モンスター! さーぁかかって来い!」
首の1本が大口を開き、ヴィスクムを食い殺さんと迫る。ヴィスクムは空中で身体を丸め、その口腔に自ら飛び込んだ。食道を通り抜け、胃袋の中に落下する。
「うへっ、胃液でべしゃべしゃする…………それじゃ、溶けちゃう前に片付けようか」
キリとスワップした右手の小指で、左の掌を軽く叩く。2人の身体は大部分が入れ替わり、ヴィスクムの代わりにキリが内臓の中に現れた。
「うおっ、ヒリヒリする…………さて」
キリは素早く周囲と自身の肉体の状態を確認する。左腕の肘から先は、どうやらヴィスクムのものになっているらしい。
「………………」
左手を胃壁に当てて数秒。ビーストの肉体が大きく揺れた。ビーストの左前肢とスワップされていた左腕が入れ替わったのだ。更に、ビーストの巨体を支えていた長く太い脚部が突然体内に出現したことで、それは勢い良くビーストの身体を突き破る。