ある新月の夜の事。普段通り怪異狩りの武者修行に駆け回っていた青葉は、ひと気の無い通りを歩く一つの人影を見た。
(ん、あれはたしか……)
その人影に駆け寄り、声を掛ける。
「潜龍さん。こんばんは」
「む……岩戸の」
狩衣姿の平坂に会釈を返される。
「お前、こんな遅くに何をしているんだ。子供は寝ているべき時間だろう」
「武者修行です。潜龍さんこそ、どうしたんですか? 正装までして……」
「……まあ、こちらにも事情や用事はあるのだ。お前はさっさと帰れ」
「……何か、怪異絡みですか? 何だったら、私も協力しますよ」
「それは駄目だ」
ぴしゃりと言い放たれ、青葉は目を丸くした。
「……その言い方。何か危険なモノがいるんですね?」
「……そういうことだ。だからお前はさっさと帰れ。力の無い奴がいても足手まといになるだけだ」
やや冷たく言われ、青葉は一瞬言葉に詰まったものの、一度大きく息を吐き出し、踵を返した。
「分かりました。今日はもう帰って寝ます。……潜龍さん」
「何だ」
「岩戸家に話はつけてありますか? 姉さまならきっと力になってくれますよ」
「……考えておこう」