喫茶店の閉店からおよそ10分、ナハツェーラーは静かに店舗出入り口から店外へ姿を現わした。
「あー、やっと出てきたー」
そこに声を掛けたのは、ナツィ本人より小柄な、腰まである長い黒髪と蜘蛛の巣柄の金糸の刺繍が施された和装が特徴的な少女。
「……そりゃ、当然でしょ。こんな明らかに不審者な格好の奴がジロジロ見てきて。で、何の用だ?」
「何ってそりゃ……あ、ごめんなさい! 先に名乗った方が良いですよね?」
「勝手にしろ」
「えー、名乗らせていただきます。私は木下練音(キノシタ・ネリネ)。ネリネちゃんって呼んでいただければ幸いです。本日ナハツェーラーさんに相見えましたのは……」
ナツィは名前を呼ばれ、ぴくりと反応する。
「あれ? わざわざナハツェーラーさんを訪ねておいてナハツェーラーさんを知らないわけないですよね? そんな大げさに反応しなくても……」
(……大袈裟、だって? ほんの数㎜肩が上下しただけだろ)
ナツィの視線を無視して、練音は言葉を続ける。
「あ、それで御用なんですけど、とっても強くてすごいナハツェーラーさんと、1度本気で喧嘩してみたかったんです! 伝説のナントカって魔術師が創り出した、史上最高の使い魔! 泣く子も黙る“黒き蝶”! 魔術に関わる者なら、誰でも1回くらい見てみたいと思うのは当然でしょう? せっかくなら、その実力を1度この目で見てみたい!」
「……はぁー、そんな下らない動機で来たわけ? 帰って良い?」
踵を返したナツィの背後から、練音は更に声を掛ける。
「……かすみちゃん、でしたっけ?」
名前が出た瞬間、ナツィの動きが止まる。
「可愛い子ですよねぇ。ナハツェーラーさんもあの子のことが随分大好きみたいですね。仲良きことは美しきこと……」
練音が口を噤む。一瞬で距離を詰めたナツィが、喉元に大鎌を突き付けたためだ。
「……何が言いたい?」
「言ったじゃないですか。戦りましょう、って」
ありがとうございます、ありがとうございます…
作者の力不足でうまく暴れさせ切れないナツィを、大暴れさせてくれるなんて…
嬉しい、嬉しい…
どんな物語になるか楽しみです。