「トタ、ガムテープとシャーペンの芯も買ってきてよ。」
後ろから聞こえる声に左手で返事をした。右手で重いガラスの扉を開ける。季節は進み、むわっと蒸し暑い空気が押し寄せてきた。空には黒い雲が広がって、今にも雨が降り出しそうだった。今から近くの100均まで向かう。ついでに夕飯の買い物も済ませるつもりだ。いつもの道ー靴屋さんを右に曲がって細い道に入る。早く大通りに出れる僕の秘密の抜け道だ。角を何回か通り過ぎ、右に曲がると大きいスーパーがそびえ立っているのが見える。この抜け道には1個しかない自動販売機。その横のリサイクルボックスの隣には猫が時々群がっていた。自分が飲むための水を買った後に、いそいそと銀のカップを取り出す。水をとくとくと注ぐと、猫は我先にと口をつける。いつもいるものだから水をあげるのが癖になっていた。1匹、2匹、3匹、4匹。…5匹?ここからはよく見えない。少し近づきながら、足のスピードを遅める。自動販売機にはいつもように陽が当たることはなく、存在感を薄めていた。自販機の横に体育座りをしているような人影がある。パーカーのフードを被って顔ははっきりと見えなかった。でも、多分あれは高校生くらいの。(だから、高校生Aとする。)え、だけど昨日はいなかったはずだ。いつも学生と会わないように時間を考えてたのに。慌ててコードが絡まったイヤホンを耳から、外す。ずっと前から使っている黒の帽子のつばをぐいっと下に引っ張った。猫が水を飲む姿をかがんで見つめる。横目で高校生Aを覗くと、目を閉じて眠っているようだった。どうしようかな、と考えているうちに猫は水を飲み終えてカップを舐め回していた。もう慣れてしまった手つきでビニール袋にカップを入れる。ペットボトルの水は半分より多いくらい残っていた。いつものようにリュックサックに入れようとした手を止め、高校生Aの足元に置いた。