「……案、というべきか…………こういった状況に強い奴には、心当たりがある」
平坂は苦虫を噛み潰したような表情で答えた。
「へぇ、誰?」
「…………俺の身内に、少しな。だが……あいつをこんな場に出すのも…………」
平坂が考え込んでいると、突然彼のスマートフォンが着信音を鳴らした。平坂、白神、怪異存在達、その全員がびくりと反応する。
「…………?」
平坂が通話ボタンを押すと、電話口から彼の妹の声が聞こえてきた。
『兄さん。右端と右から3番目、真ん中、左から2番目』
それだけ言ってすぐに通話は切られたが、その頃には既に平坂は動き出していた。伝えられた個体『以外』に札を素早く叩きつけ、そのまま踵を返し、元の位置に戻ろうとする平坂の背中に、札を貼られなかった4体の“おばけ”が飛びかかる。
「ヒラサカさん!」
「問題無い」
平坂が指を鳴らした瞬間、周囲を覆っていた結界が消滅した。それに伴い、怪異たちの動きを妨げる力も無くなり、“おばけ”達の手が彼の背中に届く。
しかし、その手は強烈な反発力に弾かれ、反動で平坂の身体は前方に向けて吹き飛ばされた。
「ふむ、流石に動きの制御は効かんか」
地面に転がる平坂を、白神が助け起こす。
「だいじょーぶ? リーダー」
「ああ。そして」
杭のうち最後の1本を地面に突き立てる。同時に、“おばけ”達の動きがぴたりと止まった。
「準備は成った。失せろ、クズ共が」
5本の杭で囲われた範囲を中心として、強い閃光が広がる。その光は周囲の怪異存在全てを飲み込み、およそ1秒後。光が止んだ後には、紙札を貼られていなかった“おばけ”達だけが消滅していた。